ボインチャン

細い、それは細い隙間がならんでいる。上下運動を続ける隙間たち。潤滑油のかわりといっては物足りない唾液がさざなみを立てるように引いては寄せて寄せては引いてを繰り返している。これを何度繰り返しただろうか。終わることも乾くこともできないまま、唾液は右往左往はしているがその動きには迷いがない。そこへ、大地が揺れんばかりの舌の動きが加わる。ここへ何かの拍子に迷いこんだ、バームクーヘンは、唾液の海、下の揺れる大地の天変地異により、一瞬にして自らの特徴でもある幾重にも重なった層を溶かされていく。層が溶かされていくならまだいい。今では存在自体が、危うい。大地と海の創造主は、バームクーヘンを唾液に溶かし、歯という壁を隔て、本来は逆流してはいけないのだが、バームクーヘンの柔らかさには興味を持ってしまった。唾液とまたとない見事な分量で混ざり合ったバームクーヘンは、舌のプレートを押し上げる地震にも似た作用で細いそれは細い隙間に流れ出た。
液体と化したバームクーヘンは隙間から流れでる。決壊したダムの様に。決壊したダムの勢いは止まらない。勢いは激しく、ダムの底に沈んでいたバームクーヘン、昼食の食べカス、何もかもを押し流した。そこへ、舌が絡みつくように歯の裏を削る。際限なくあふれ出る唾液は混ざり合い、バームクーヘンの濃度をますます薄くしていった。いよいよ、飲みこむ時を待つだけだが、いざとなると臆してしまい、焦りも入り混じった唾液になる。いつまでも寄せては返すを繰り返しては他者との通信も出来なくなる。畜生と意識の表面で考えても言葉にはならない。なぜならバームクーヘンがいるからだ。もうバームクーヘンとは呼べない代物なのだが。もうこんな思いをするのは私だけでいい。犠牲にも似た感情が芽生える。だから僕はバームクーヘンなんて嫌いなんだ。と、ブハーブビッと厭らしい音とたてながら飛び出し、その直後床にクリーム状の何かが張り付いていた。